インドネシアでの製造業における生産オペレーションの現状と今後【第2回:生産管理】

2021年7月後半の執筆時点では、インドネシアでのコロナ感染状況は予断を許さない状況です。 1日のインドネシア全土での感染者数も4万人前後で推移し、ジャカルタ市内だけで1日あたり1万人を超える日が続いています。 ジャカルタ市内とはジャカルタ特別州を指し、近辺のチカラン、カラワンなどの工業地帯の人数は含まれておらず、近郊地域での感染も爆発していますので、首都圏のみで全土の感染者数の50%近くは占めているとも言われています。

私もお客様とお話していても、社内にて数百人規模で感染した、日本人駐在員が全員感染した、インドネシア政府のロックダウン施策により、操業率を50%以下まで減らされている、などといった声を耳にします。6月、7月はコロナ対策で皆が疲弊し、とても「業務改善を進めましょう」という話を持ちだすような状況ではありません・・・。

インドネシアでのロックダウンは、日本と比べるとかなり厳しく、交通規制やモールの閉店も日常的に行われます。企業についても「エッセンシャル」(稼働を50%に制限)と「クリティカル」(稼働100%可)に分類され、同じ工業団地に入居している企業でも、ほとんど(家電や自動車製造などの業種)はエッセンシャルに、一部はクリティカルに、会社ごとに分類され、操業率の制約を受ける企業も多いようです。
今回のロックダウンもいつまで続くか分かりませんが、インドネシアの経済が回復するまでは、今しばらく時間がかかりそうです。

このような折、7月20日は、イスラム教で定められた犠牲祭というイベントの日でした。毎年、地域のモスク(寺院)やコミュニティごとに牛やヤギなどを解体して皆で分け与えて皆で祈るという儀式が行われ、多数の信仰者がモスクに集まり礼拝する光景が見られます。 政府としても宗教行事を制限することは難しく、このコロナ禍でも各地で実施されたようです。

この状況下では、あまり平時での企業の生産活動などのお話をするのもためらいましたが、いずれワクチン接種がインドネシア全土でも進み、コロナ感染状況が収まることを願いつつ、インドネシアでの生産オペレーションの特徴を、連載第2回としてご紹介したいと思います。

今回は、生産管理に焦点を当てて、インドネシアでの現状をお伝えしたいと思います。
生産管理業務の現状については、今まで3年近く、様々な製造業のお客様と議論し、コンサルティングを行ってきた中で、会社規模に応じて大きく2種類の傾向に分類できると考えます。

(1) 大規模企業(従業員1000名以上)

この分類の企業では、生産管理業務やシステムについては、日本本社のシステムを横展開してインドネシアでも利用しているケースが多い傾向です。 生産管理での月次、週次、日次での計画立案の業務も、日本と同じやり方を踏襲して、インドネシア人メンバーも十分に理解し、彼らのみで日本と同等レベルの計画立案、および実績収集をしています。 日本からの人員や予算の支援も十分にあり、生産計画立案は自社内で完結するケースが多い印象です。
一方、消費者向け完成品を扱う企業では、需給管理は今後の課題にはなってくると思います。今は、販社側からの月次の販売計画、仕入要求を受け付け、それをもとに生産側の供給キャパシティを考慮し、各販社向けの生産アロケーションを月次で実施しています。 会社によっては、自社の他海外拠点工場や販社向けに輸出しているケースもあり、それらとの優先度も踏まえ、生産アロケーションを実施しています。現在は、生産と販売、あるいは仲介役の需給チームがアロケーション結果を販売側と調整する場合がほとんどですが、販売店によっては供給品不足や納期遅延がお客様に発生するケースも、今後コロナ関連の非常事態が収束し、消費者市場の需要が回復してきた際には起こりえます。

需給調整を行う場合には、販売側の在庫量、販売実績、および販売計画が見えないと、仕入要求の精度が生産側では測れません。ただ、他の国でも同様ですが、これらの販売側の情報は全く見えないケースが大企業でも多く、生産側ではこれまでの実績から属人的に販社別のアロケーション量を見積もることがほとんどです。 この要因は、生産機能を日系企業で担い、販売機能はインドネシア企業側が推進するケースが大多数であり、インドネシア企業側からの情報は、ほぼ得られないという状況が多いからです。 日系企業側で「販社管理システム」の環境を用意しても、インドネシア全土の販社現場でそれを入力してもらう定着化は、なかなかうまく進みません。 自動車や飲料メーカーで、同じような状況をこれまで目にしてきましたが、定着化は現在も進行中で、情報連携の解決には至っていません。 会社間での政治的な調整も必要となり、単に情報共有のシステムを導入することで解決する課題ではなく、より中期的に考えていくべきテーマと言えます。

(2) 中小規模企業(従業員200-900名)

この分類の企業では、生産管理ツールを最近使い始めたばかりであったり、あるいは未だExcelで生産計画を立案したりしているケースが多い傾向です。 生産管理業務もインドネシア法人の工場間のみで完結する計画を立案しており、他国との生産計画連携(他国間部品供給)を行っているなどのケースは少数です。 インドネシア人メンバーが計画業務を日次、週次で回しますが、熟練したメンバーは2、3人しかおらず、メンバーの育成も課題になっています。

生産管理ツールを導入している企業では、通常の業務は計画通りにスムーズに進められます。 最近の生産管理ツールは、オーダー、材料/半製品/製品在庫、品目別/製造装置別サイクルタイム、購買/物流計画、などを全て取り込み、最適な日次/週次計画を立てるシミュレーション機能が充実しており、インドネシアでも適用している事例が数多くあります。 しかし、このコロナ禍での需要変動や原材料調達の変動により、日次での突発の計画変更が多発しており、生産管理ツールを利用していても、その対応に社長から現場リーダーまでが多忙を極める、という状況が続いているようです。このような計画変更に柔軟に対応して日次、週次の生産計画を調整できるような仕組みについて、相談されるケースが増えています。

図1.生産計画変更の発生要因

生産管理ツールを入れていない企業では、月次の顧客からのオーダー情報を基に、加工、組立などの各製造プロセスの責任者が自製造プロセス分の日次計画まで月次で作成する方法を取っており、製造プロセス間での日次の生産量の調整が取られていないような企業も見受けられます。 どのように生産の各制約条件を属人的にコントロールしているのか、私も関心があるところですが、詳細は現場の担当者からはヒアリングできていません。 もちろん、日本人赴任者の生産管理責任者や経営者は、日本式の生産管理は十分に理解されている会社ばかりですが、インドネシア人メンバーにそれらのスキルを教えることに多くの時間を要するため、理想の計画策定手順を組織に定着化させることを断念し、かつ、投資も難しいため、現状のオペレーションレベルで何とか生産を回すことに集中している中小企業も多い現状です。

このような企業には、従来のExcelベースで、かつ材料/半製品/製品在庫、品目/製造設備・プロセス別のサイクルタイム、オーダー、納期などを全て含めたかたちで人手で管理する方法、Asprova社などの充実した機能を持つ生産管理ツールを使う方法、あるいは販売や調達の計画とも連携したかたちで一気通貫の生産管理スケジュールをリアルタイムに立案/更新する方法など、それぞれの会社にあった提案をし、今もいくつかの会社と検討を進めています。 それぞれの会社で選択する方法は異なり、どれが正解とは言えません。 その企業の置かれた環境、従業員、組織体制に合わせて、最適な方法を模索していくべきだと考えます。

図2.生産管理業務改善の3つの方法

今は、コロナ禍でインドネシアは大変な時期ですが、2022年にはワクチン接種も進み、経済も立て直しに入ってくると信じています。 多くのインドネシア進出企業がこのような状況下であっても、どのように将来の事業を発展させるか、どのような組織、オペレーションに成熟させていくかについて、検討しています。  今世界で注目されるDX(Digital Transformation)の波は、まだインドネシアには来ておらず、どの企業でも、トライアルレベルです。 とはいえ、導入コストも低減され、他国での実績も充実してくれば、この波はインドネシアにも到来すると感じています。 そのようなDXの環境を前提とした、最適な生産管理の在り方について、コロナ禍が収束し、様々な企業の方々と前向きに議論できる時が来ることを願っています。

図3.将来的な生産物流領域でのDX構成要素(例示)
著者
河野 茂樹
NTTデータグループのコンサルティング子会社 株式会社(株)クニエのインドネシア活動拠点にて勤務。
25年近く製造業、主に自動車業界での開発、生産・物流、販売/サービス 領域での業務改革コンサルティング案件に従事。2018年よりジャカルタに駐在し、現地の製造業、小売業のお客様の業務オペレーション改善を支援中。

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