アジアビジネスへの期待 – 海外駐在員のバイブル「アジア進出を成功に導く25講」著者 藤井賢一郎からのメッセージ

加速するビジネスのアジアシフトの流れ

当社は10年前に中国ビジネスを立ち上げてから東南アジア・インドへのビジネス展開を進めてきました。

理由は単純で、量産工場のみを市場とし、「生産スケジューラ」という製品のみを販売する当社にとっては、飽和する日本市場から世界にビジネスを展開することが不可欠であったからです。

特に日本に多くのユーザをもつ当社製品にとっては、日系工場が多く展開するアジア地域は重要なマーケットであると考えました。

当方これまで、中国・タイ・インドネシアと駐在させていただいて、ビジネスの立ち上げを行ってまいりました。

昨今は、コロナという予想外の環境下で昨年は、20%ずつ毎年成長してきた当社海外ビジネスも前年比50%という散々な結果でした。

しかし、アジアの成長という流れは今後も止まらないものと想定されます。

また、多くの国の集まるアジアでは、国によりコロナからの立ち直り次第で、中国やベトナムといった良い結果の出た国もあり、ビジネスのリスク分散ができるという利点もあります。

アジアビジネスのリスク

しかし、東南アジアは一口に6億人の中間層といっても、国によって発展の度合が異なるうえ、各国を見るといまだに貧富の差が激しいというのが現実もあります。

そのような中でも中国同様にタイでも、日系企業からローカル企業へと当社ビジネスもひろがってきています。

中国市場では当社の顧客の90%が中国ローカル製造業となり、日系企業からの売り上げは10%にすぎません。

翻ってアジア全般をみる限り、「中進国の罠」から脱せているのは、日本・韓国の2ケ国のみです。いずれも東アジアに位置し、南アジアという視点からは、インドも含めて今後の成長は不透明だと思います。

誤解を恐れずいわせていただくなら、あくまで私見にすぎませんが、東南アジアのイスラム教国の成長には、当方、?です。

実際に「ルックイースト」を合言葉に、東南アジア域ではいち早く成長をとげたマレーシアも、途中から「自国主義」で成長が滞っています。

2.5億人以上の人口ボーナスを期待されていたインドネシアも、実際に現地に駐在させていただいて、現地の日系企業のお話を直接聞かせていただくと、ビジネスの拡大に関しては、「現状は飽和状態で我慢の一言」という声をよく聞きます。

また、仏教国はどうかというと、ミャンマーでは軍事クーデターが起こり、今後の経済成長に陰りがでていますし、タイについても過去何度もクーデターを繰り返しながら、現在は、元軍のトップが大統領になっています。

このように、東南アジアでは、日本人に想像できない宗教・民族の対立が、経済成長のリスクとなっています。

さらに視点を変えれば、東南アジア各国の富裕層は、「華人」におさえられていて、人口の数パーセントが国の富の大半を抑えています。

相続税・固定資産税のない国も多く、富の分配もうまくいっていません。貧富の差が広がってきた日本といっても、比較にならないほど、「絶対的貧困」が広がっているのも、東南アジアです。世界第二の経済国になった中国でも、国のトップがいまだに「貧困撲滅」をスローガンに掲げています。

中華経済圏に組み込まれる東南アジア

ここで、大胆な予測をさせていただければ、東南アジアは将来的には、中華経済圏になると当方は考えています。

さきほどの東南アジア各国での中華財閥の台頭だけでなく、すでにアジアへの影響力を失ったアメリカ、人権以外関心のないヨーロッパ各国の昨今からしても、ますます、中国化が懸念されます。

当方の意見では、「政治は政治、経済は経済。」です、日本が香港のようななることは望みませんが、日本自体も、経済的に中国に大きく依存していることも確かです。

したがって、当方としては、アジア域の本社を中国に置くべきといっておきたいと思います。

確かにこの方針にはリスクも存在する。まず、中国は世界第二位の経済大国ではあるが人口が多いために、国民一人当たりのGDPが10000万ドルにしか達していない。いわゆる中所得者の罠にかかるリスクがある。

さらに統計や政府発表に信頼が置けない。情報が正確でなければ正しい判断も難しい。

しかし、こうしたリスクはどの国でもあり予測できない。したがって株式投資と同様でリスクを買って一番リターンの多そうな投資を現在ではすべきではないだろうか。

もう一つの大国インドと中国の違い

さて、人口で中国を抜くといわれているインドはどうでしょうか。

私は、民主国家といいながら、インドは多くの問題を抱えていると思います。ひとつは、カースト制による階級差別であり、もう一つは、各州ごとの独自性です。

インドは将来的にはアメリカのような合衆国制になるのではないでしょうか。

中国との国境問題や民主国陣営にいるインドは、中国とは将来相容れない経済圏を確立するものと思われますが、共産国家でないが故に、その成長スピードは中国におよばないでしょう。

コロナ対策をみても、人権侵害の云々を別にすれば、共産国家は一気通貫に、スピード感をもって対応できることが証明されました。

私の中国の友人も「共産党は必ずしも好きではない。しかし、中国のような大きな国が経済成長に向けて一気に登りあがるには今は必要な体制である」としています。当方もその意見に賛成です。

一つの実例として、「インドネシアの高速鉄道建設」を上げましょう。インドネシアは当初、技術に勝る日本企業に開発のフィジビリティスタディを依頼しましたが、実際の建設は低コスト観点から中国案に決定しました。

その計画が今頓挫しているのは、国土が国のものである中国と民主国家で土地の個人所有権が認められるインドネシアの国情の違いが一因であるといわれています。

インドネシアでは土地は個人のものですから、その買収となると各地の地価(売値)があがることは当たり前のことで、中国案はそこまで想定していません。

アジアにおける日本の存在感の低下

日本は先の大戦で多くのアジア各国にご迷惑をかけたという考えから、「見返りの少ない経済援助」をつづけてきました。その活動が、中国・韓国を除く多くのアジア各国に親日感を醸成してきたことは確かです。

しかし、東南アジア駐在者からすれば、「それは幻想にすぎない」といっておきたいと思います。誰だって、お金をくれる国は大歓迎、中国が日本にとって代わるのは近い将来だと思います。

そのような想定からすれば、世界で唯一の直轄支店を上海にもつ当社にとっては、アジアビジネス優位の将来が見えます。

宗主国がヨーロッパから日本、アメリカから中国に代わる東南アジアでは、ビジネスのポテンシャルを中国に置くべきと主張したいと思います。

実際に昨今、日系製造業に続き、多くの中国企業の工場が東南アジアに進出してきています。

インドに関しては、不確定です。当社製品は、自説によれば、国民一人当たりのGDPが最低5000ドルを超えないと現地では正価では売れないからです。

インドがその域に達するまでには、コロナのよる影響もあり、あと数年かかるでしょう。

さて日本ですが、人口減少は避けられません。駐在経験から日本人の優秀さを認める当方ではありますが、人口の減る日本で量産型の製造業は衰退していくでしょう。

日本は、高齢化問題や地球環境対策で、産業の構造を変えていくものと考えます。安易な移民政策に当方はくみしません。

欧米の失敗をみれば明白ですし、駐在者として異民族・異宗教・異文化と触れてきた当方からすれば、単一民族の日本の国柄は貴重なものと感じます。

アセアンを超えた経済圏の広域化

話をインドに戻しますが、実際に当方はいまだ、この国いったことがありません。あくまで現地主義を重んじる当方からすれば、軽々なことは言えませんが、東南アジア各国にはインド村がたくさんあります。

日本と異なり、自国にもどれない彼らは、本気で東南アジア各国に生活圏を築いています。

ブラジル移民の時代とは異なり、今の日本は裕福です。したがって東南アジアに展開する日本人は、駐在者か現地人と結婚した人が主流でいつでも日本に帰れるという逃げ道があると思います。

その点で、東南アジアに展開するインド人は中国以上にグリーディと感じます。見せかけとはいえ共産主義国家である中国と比較して、カースト制からはじかれたインド移民はより強いといえるのではないでしょうか。

ASEAN経済共同体が2015年にはじまってから5年が経過し、アセアン域内での関税の撤廃や人やモノ・サービスの移動の自由化などが高らかに謳い上げられたが、当方にはその実利が感じられない。

経済的発展が異なる貿易協定では、インドが中国経済を恐れてRCEPに参加しなかったように、各国の利害調整が容易でないように思える。

また、アセアン域内各国の貿易相手は主に欧米日本中国韓国であり、域内国同士の貿易金額はそれに比較すると小さい。

ここにきて、中国韓国日本を含めたRCEPが発効されるにあたり、アセアン域内のみでの貿易協定は色あせたように感じられる。

東南アジア各国の「一体一路」政策に対する警戒感も強いとはいえ、中国の圧倒的な経済的・軍事的圧力に単独で抵抗できる国はアジアにはない。

中国自体が抱えるリスク

最後に中国自体のリスクについても考えたい。

当社の中国顧客の多くが中国企業であることは前にお話ししましたが、その99%が中国民営企業であり、国営企業の顧客は1社しかない。

この視点からすると中国共産党の国営企業重視と民営企業圧迫の姿勢は大いに危惧される。

アリババのジャック・マー氏が、AIを利用した株式投資の会社を上場させるにあたって、中国政府の方針や規制を批判したことで、上場延期となり、マー氏の露出もなくなってしまったことは記憶に新しい。

中国企業がアセアン域に進出していくためには、民営企業の発展が欠かせない。中国共産党の権力とハイテク産業の勢力拡大がこのように衝突し、新技術の開発が妨げられるとすれば、中国はアジアにおけるアメリカには経済的にはなれないと思う。

中国のワクチン戦略やアジア各国への経済援助の裏側、助はするが、同時に政治的な見返りを過度に求める姿勢は、東南アジア各国が経済的に成長した際には、負の遺産となるのではないか。

当方は3年前にアジア駐在から帰国させていただいた際に、「アジア進出を成功に導く25講」という自著を出版した。

アジアに駐在し、ビジネスを立ち上げるうえでの実体験から、自分なりの意見と感想を書かせていただいた本であるが、すでにその内容は古い。

素早く激しい環境変化の中にあるアジアでは、昨年のことは今年には役に立たない。今後も、アジアビジネスにおいては最新の現地情報の取得と朝令暮改をおそれないビジネス戦略が不可欠と考える。

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