東南アジアの日系製造業のDX化がなぜ進まないのか? 【「アジア進出を成功に導く25講」著者 藤井賢一郎が斬るアジアビジネス】

東南アジアの日系工場の駐在者に聞いてみると、工場のDX化が進まない理由として

  1. 生産規模が小さいので人手で十分
  2. 日本と同様のシステムを導入してもローカルスタッフが使いこなせない
  3. EXCEL運用等でフレキシビリティにデータ修正できるシステムがよい

の3つの意見が共通してあげられます。

一口に東南アジアの日系工場といっても、国によりまた企業により、進出の歴史の長短や生産規模の大小が異なることも事実です。ここで考えられることは、

 

1.新規工場であれ生産量のあがった既存工場であれ、人手で管理業務が追い付かなくなった段階で、ITシステム投資の成功が見込めるか?ということです。
低賃金利用を目的に進出した工場も、早晩、賃金上昇の方向性に行くことは明白です。

この段階で少ない人員でシステムを導入運用の成功につなげることは、ほとんど、不可能です。せっかく導入した生産システムの一部の機能のみ利用することになるか? EXECL運用にもどってしまうことが現実です。

(ア) ERPシステム(MRPシステム)を導入しても、総所要量計算にのみにしか使っていない。理論在庫も製造実績もまともに把握できない。

(イ) 現地会計法にあった会計システムを導入しても、製造ラインからの情報が不正確で、毎月末に多大な工数をかけて修正作業に追われている。

(ウ) 属人化されたEXCELシステムで担当者にしか、なかみが分からない。あげく、その担当者もなんの引継ドキュメントものこせず、転職していってしまう。

工場のシステム投資に関しては、工場建設から利益を出す生産ラインにいたるまで、中長期の視野で考えなければ、結局大損をしてしまいます。

2.東南アジア各国を見るとほかの分野では、例えば、ECやモバイルシステムの利用、バイク便のIT化など、既存システムの縛りや既得権がないゆえに、日本以上にDX化が早く進んでいるのが現状です。

また、よく言われるように各国とも「人口ボーナス」で若い人材が多いことも特徴です。

こう考えると、工場で導入れるトータルシステムを使いこなせない本当の理由は、現地スタッフにその利用方法や情報の正確な情報の重要さを教育できない駐在員にあります。

3年程度で腰掛に現地にきて現地語も話せない、通訳を利用するとしても通訳自身が自社工場の業務をよく知らない、などあげたらきりがありません。

 

3.さらにいえば、東南アジアの工場で当然のように予測できるリスクヘッジができていない。多発する優秀な人員の転職という事実であり、

(ア) 硬直された人事制度で、能力績に比例した給与インセンティブ制が欧米工場に比較して脆弱。それでは、優秀な人材はその経験を生かして、他企業にいってしまうのは当たり前。

(イ) 総じて、ドキュメント化という観点からするとその習慣のないローカルスタッフに業務フローや説明書を作らせることがない。いや、最初は作成したとしても、その後、まったく更新されない。結果、その業務に関しては、客観的に引き継げるドキュメントが存在しない。

提案としては、最初からトータルシステムをいれ、カスタマイズすることなしに、そのシステムの利用法を繰り返し、現地語でローカルメンバに教育すること。

システム導入よりもさらに難しいシステム定着・運用継続に向けて、現地語のドキュメント化と最新版への更新を怠らせないこと。

よく議論されるその時点での工場生産高や人件費に比較して日本と同様のシステム投資ができないという意見は、あまりにも近視眼的です。

その国でビジネスを継続していく上では、将来的にはその国のマーケットでシェアをとることが重要であり、中長期的には投資が必要です。

確かに製造装置一台のほうがその時点では多くの製品を生み出しますが、高価な製造装置と比較してもソフトウェアパッケージは安価な保守費用で継続して利用でき、故障や寿命はありません。

その意味でも、工場進出時点からのトータルな製販財のDX化を、当方の経験からしても推奨します。

省みるに、今回のコロナ騒動で、日本自体のDX化がいかにすすんでいなかったのか?日本人全員が身にしみたと思います。

行政のそれひとつとっても、システム開発会社の囲い込みや既得権の壁で、共通したシステムがなく、情報交換が行われない。保健所でコロナ患者の情報をFAXでやりとりし、システム入力していたなどとは、バカげた話だと思います。

卑近な例でいわせていただければ、当方のかかりつけ医にオンライン診療を申し入れたところ、調剤薬局とその医院が利用するシステムが異なるため、患者に2重の手間がかかるとの回答でした。

ご存知の通り、通常、クリニックとその調剤病院は、距離的には歩いて数分の位置にありまず。それらが、オンラインシステム利用の費用が異なるという理由から別々のシステムを使っているのです。利用者の視点がまったくないDX化の典型と感じました。

当社システムも同様で、グローバル展開する上で、利用者の経験や能力を加味していない点があります。

その結果、使いこなせないシステム->マスタメンテなどのシステム維持が困難->無駄な投資となるものと東南アジアの工場では認識される事が多いです。

人口が減少していく一方の日本の工場でも、外国人労働者が今後増えていくと想定されます。

その意味でも、過去のしがらみがない・若い思考力がある・既得権者がいない、東南アジアの工場でシステムを開発していくとことこそ、当社の中長期のビジネス継続には必須の視点と考えます。

藤井賢一郎 fujii@asprova.com
2000年代より、中国・タイ・インドネシアに駐在。コロナの影響でベトナムには駐在できずにいるが、日々、現地の代理店と情報交換の上、ビジネスをすすめている。
アスプローバ株式会社 営業顧問

著書
「アジア進出を成功に導く レクチャー25講」
株式会社青月社刊